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住宅セーフティネット法の改正
低所得者や高齢者に対し、安定した賃貸住宅の供給を促すことを目的とした住宅セーフティネット法が改正され、2025年10月に施行されることになりました。
◆住宅セーフティネット法とは?
住宅セーフティネット法とは、住まいの確保が難しい「住宅確保要配慮者」が安心して賃貸住宅に入居できることを目的として作られた法律で、主に次の3つを軸に構成されてい ます。
【1】住宅確保要配慮者が安心して入居できる賃貸住宅制度
住宅確保要配慮者とは、具体的には次のような方です。
●低所得者
●高齢者
●障がい者
●発災後3年以内の被災者
●外国人
この制度は、賃貸オーナーが物件情報を都道府県などの行政機関に登録するもので、住宅確保要配慮者は登録された賃貸住宅の情報を手軽に検索することが可能です。
希望の物件を選択した住宅確保要配慮者は、該当する物件に対して入居申請を行います。
この制度があることで、住宅確保要配慮者は 不利な立場に立たされることなく、安心して住まいを見つけられます。

【2】 登録住宅の改修および入居者支援に対する経済的援助
住宅確保要配慮者専用賃貸住宅として物件を登録すると、改修や入居に対して国や市町村から経済的な支援を受けられます。
例えば、以下のような改修工事をした場合、 改修にかかった費用の3分の1の補助金(上限50万円まで)が支給されます。
●耐震改修工事
●シェアハウスに用途変更するための工事
●間取り変更工事
●子育て世帯対応工事
●安否確認ができる設備導入工事
他にも、低所得者のために家賃を通常より低く設定した場合には、家賃低廉化補助として月額最大4万円までの補助金を受けられ、家賃を下げることによるオーナーの負担を軽減し、住宅確保要配慮者専用賃貸住宅としての登録を促しています。
さらに、家賃債務保証料の低廉化に係る補助として、住宅確保要配慮者と保証契約を締結した保証会社に対して最大6万円の補助が支給されます。
【3】住宅確保要配慮者を対象とした居住サポート
住宅確保要配慮者を対象とした居住サポートとしては、住居支援法人や地方公共団体が中心となり、住宅確保要配慮者が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、さまざまな支援を行っています。具体的な支援内容は次のとおりです。
●住宅情報の提供および相談対応
●入居手続きのサポート
●家賃債務保証の提供
●生活支援および見守りサービス
住宅確保要配慮者に対し、適切な物件情報を提供するとともに、入居に関する相談を受け付けています。また、家賃債務保証の提供 や、必要に応じて内覧同行や入居手続きの立ち合いに対応してくれる場合もあります。
ほかにも、特に支援が必要な高齢者や障がい者に対して、生活支援および見守りサービスを実施しています。
◆オーナー側のリスク軽減
住宅セーフティネット法は、住宅確保要配慮者に寄り添った法律である一方で、賃貸住宅を登録する賃貸オーナーにとっては家賃滞納や孤独死といったリスクが課題となり、登録への心理的なハードルが高い状況でした。
その負担やリスクを軽減するために、次のような仕組みや手続きが導入されます。
【1】家賃債務保証と家賃確保の仕組み
賃貸オーナーが住宅確保要配慮者と賃貸借契約を締結する際、特に懸念されるのが家賃滞納リスクです。
今回の改正では、住宅確保要配慮者が家賃債 務保証業者を利用しやすくなるよう、「認定保証業者」を国土交通大臣が認定する仕組みが導入されます。
入居希望者は認定保証業者を利用することで家賃債務保証を受けやすくなり、万が一家賃の払い込みが滞った場合でも、保証業者に家 賃を立て替えてもらえるため、賃貸オーナーは家賃滞納リスクを軽減できるでしょう。
また、生活保護受給者が入居する場合、生活保護の実施機関を通じて直接家賃を支払う「代理納付」の仕組みも整備されます。
この制度により、賃貸オーナーは家賃の受け取りが確実になり、滞納リスクを事前に防ぐことが可能です。

【2】 入居後の見守りと福祉支援の仕組み
賃貸オーナーの懸念材料として孤独死リスクが挙げられます。
このリスクに対応するため、改正法では、居住支援法人などによって以下のようなサポートが導入される予定です。
●電話や専用機器を利用した安否確認
●緊急時の駆け付けサービス
●福祉サービスへの取り次ぎ
入居後も人感センサーなどによる安否確認や緊急時の駆け付けサービスが行われます。
また、入居者が一人暮らしを続けることが困 難になった場合には、福祉サービスへの取り 次ぎも行われます。
この仕組みにより、入居者が安心して暮らせる環境が整うとともに、賃貸オーナーが抱える不安を大幅に軽減できると思われます。

【3】入居者死亡時の手続き簡素化と残置物処理の円滑化
賃貸オーナーにとって、入居者死亡時の手間 やトラブルも大きな課題の一つです。
今回の改正では、まず、終身建物賃貸借契約の利用促進が図られるようになります。
この契約には更新がなく、入居者の死亡時に契約が終了します。
従来の賃貸借契約では、入居者が死亡すると 貸借権が相続されることになり、契約終了時の手続きが複雑になることがありました。
一方、終身建物賃貸借契約では相続が発生しないため、契約終了の手続きを簡略化することが可能です。
次に、残置物処理のモデル契約条項が新たに追加されます。
従来は、残置物については相続人が引き取るか処分する必要があり、入居者死亡時にオーナーなどが残置物に手をつけられず、部屋をそのままにしておくしかないケースも少なくありませんでした。
しかし、本条項に基づく契約を事前に結んでおくことで、相続人と連絡がつかない場合や親族がいない場合に、賃貸オーナーが残置物を処理することが可能となります。
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今後は、さらなる少子高齢化が進むなかで、住宅需要の多様化や高齢者を中心とした入居支援の需要が一層高まることが予想されています。